続・24時間表示の腕時計
以前購入したブローバ製の24時間表示な腕時計…実は本命ではなかった。様々な書籍やWebに出ている有名な24時間表示腕時計はエルジン製のものがあり、当時もそれが欲しくて八方手を尽して探したものの見当たらず、その過程で見付かったのがブローバ製のものだったのだ(寧ろブローバ製のほうが珍しいかもしれない)。偶々同程度のものが2個売られていて、それを2個とも買うという行動は「今後恐らくエルジン製のは見付からないだろうなぁ」という諦観の念から出た衝動と言って良い。『人気があるため、もし売りに出ても高いうえにすぐ売れてしまう』という記述があちこちにあったことも大きい。
しかし、理由は解らぬが、この件はなんとなく諦め切れなかった。ふだんは一昔前に流行った言葉でいう“妥協・打算・惰性=3D”を地で行くような生活をしているが、この件は心にずっと引っ掛かっていたのだ。それ故、ブローバ製のを購入後も折をみて探していたが、遂に見付けることができた。しかも立て続けに2個、売主が言うにはデッドストックものだ。うち1つは裏蓋にあずはずのミルスペックに関する打刻が一切なくハック機構(秒針規制機構)が無い「A-12」、もう1つには打刻が揃っていてハック機構がある「A-11」だ。下の画像でいうと、左の、秒針に赤い三角形が付いているものがA-12、右の、シンプルな剣先がA-11である。
これらは当時のアメリカ陸軍航空隊が採用していた「A-11規格」に沿って製造されているため、ケースの大きさとラグ幅はブローバ製のものと同じ32mm/16mmだ。ただし、24時間表示でダイアルが黒一色の場合は「A-12規格」となるらしい。“らしい”というのは、その辺りに関する記述が書籍やあらゆるWebの記事等で揺れているため断言できないからだ。なお、同じエルジン製の24時間表示でダイアルの右半分が白、左半分が黒に塗り分けられているものも非常に有名で、それは「A-17A規格」であると一般的には言われているが、これが本当だとすると私が持っているブローバ製の24時間表示のものと状態が異なる。ブローバ製には背面に明確にA-17Aの打刻があるものの、どちらも黒もしくは白の一色だからだ。製造メーカが異なっても同じものを納品させるためにミルスペック(規格)が規定され、その規格に沿って製造・納品させているのにエルジンとブローバで納品物が異なるということは有り得ないだろう。1940年頃の当時はこのぐらいの揺れを許容していたのかもしれないが、正確な経緯は物品調達を担当しているであろう補給廠にでも訊かねば解らない。
ブローバ製のキャリバが10BNCHで統一されているのとは対照的に、エルジン製のA-11/A-12はキャリバも様々で、Webを探索しても、少なくとも3種類ある。このこと自体は不思議ではない。A-12もしくはA-17Aで規定された誤差以内の計時性能であれば、キャリバの種類は問われないからだ。私が購入したものは、ハック機構なしがELGIN 532、ハック機構ありがELGIN 539である。いずれもブレゲヒゲを持つ18,000振動の16石で、耐衝撃機構は実装されていない。これらは1937〜1944年にしか製造されてないため、製造年は遅くとも1944年と断定できる。
デッドストックなので、私が新品の状態から使うファーストオーナとなり、その後の状態は私がコントロールできる。ケース・ダイアル・時針・分針・秒針は、デッドストック故、目立った傷が何も無く、約70年経っているとは到底思えない。ゼンマイも極めてタイトな感触で、そのまま使っても問題ないように思えるが、製造から70年弱も放置されていた精密機械を点検や注油もせずにいきなり使う勇気は無く、注油とオーバーホールを兼ねて、とりあえずA-12だけをレマニア中三針と同じ修理専門業者へ出し、常用しようとしている。